2013年07月24日

7/21 空に咲く花 (祖父の思い出 祖母から)

 ノモンハンの激闘で、奇跡的に生き残った祖父の写真がある。写真からも快活だったと分かる祖父が無精髭も痛々しくやつれて、呆然と座っている。対戦車戦を体験し、あまりの酷敗ぶりに口にすることも憚られた戦い。
「この後、上官から『航空隊の試験を受けないか』って勧められたんだって。」
その時を思い出して祖父が語ったひとこと

  陸地は混みあってるから
  空は広いし


 空に希望を見出した祖父は戦死したけれど、テストパイロットになる夢を持っていてよく語っていたらしい。
 
 飛行機雲を見ながら、祖母と孫が思い出す。もう遠い人の近い思い出。
posted by かみうお at 08:54| Comment(0) | かみうお | 更新情報をチェックする

7/20 海

 向かい合って食事を摂っていて、そういえばあの時ね、と思い出話が多くなっていることに気づく。
 私から話すことは少なくなり、あなたがぽつぽつと言葉を拾うようになっていた。今話しているのは海に行った時のことだった。外洋と内海を一本の道の左右で見たその場所を、あなたは懐かしく語る。
 ああ、そういえばと私は思いだす。砂浜を歩いたとき、丸々と光るものを見つけたのだった。砂に埋もれて透明に固まるそれは、引き潮に乗り損ねたクラゲの死骸だった。
 そんな丸く光る死骸が、気がつけば砂浜のあちこちに黙って、ボタンのように埋まっていたのだ。かつての柔らかさなど、どこにも無く。
 虚ろな、虚ろな、会話の中で引き潮に乗り損ねたクラゲを思い出した。
 砂浜に固まって咲いた海の月達。

 また海に行きたいね、とあなたが言った。
 そうね、と私はこたえた。

posted by かみうお at 08:45| Comment(0) | かみうお | 更新情報をチェックする

2013年07月23日

7/19 ただの飾り

「『首飾り』って読んだことある?」
と聞かれたので、モーパッサンでしょ、と答えておいた。
「そう、あの借りた首飾り失くしたから必死に働くんだけど、結局それイミテーションだったからそんなに価値無かったのよ、って」
「うーん、まあ働く価値が分かったから人生ではトントンなんじゃない。」
「うう、そうやってすぐ結論付けないでよ」
何を言ってるのやらと、私は目の前で口をとがらせる人を見る。
「もうすこし聞いてくれたっていいじゃない。」
おや、と私は体を向ける。どうやら聞いてもらいたいことが他にあるらしい。最初に主題を言う私に対して、この人は前ふりをし、時系列で組み立て、やっと本題に入る人だった。
 ということはこれからが本題で、物語の話をしたいわけじゃなかったのか。共感のための準備を私はどっこらしょとする。
「だからねえ」
「はいはい」
「あの、イヤリングなくしちゃったんだけど、どこで買ったの?」

 ガチだったのか!

posted by かみうお at 21:03| Comment(0) | かみうお | 更新情報をチェックする

2013年07月20日

7月19日 ただの飾り(現代詩)


茶色が緑に変わり
緑がみずみずしい白色へと変わる

ただの皮を剥いているだけ
今私はただの玉ねぎに
全方位から在るがままに撃たれる

狙撃手は
外観として口に触るが
この手に落ちた所を伺うに
自らを内包したまま実体をさらすようだ

玉ねぎ層の奥深く
隠されたものはやはり玉ねぎ様か

延々考えあぐねると
中心に隠された玉ねぎ性を
本体よりも大きく感じていた

現れている内面は
炒めればかさばらない

付随して出現するイメージ
バターを加えると良い匂いがしてきた

posted by 佐藤 歩 at 01:31| Comment(0) | 佐藤 歩 | 更新情報をチェックする

2013年07月19日

7/18 足のサイズ

 黒ずんできたので、下駄を洗った。人数分洗うと結構な量になった。
 縁側に並べていたらあなたが笑う。すごいね、ムカデの医者迎えみたいだ。
 一つダメになったら次を買えばいいでしょうに、と私は言う。昔から変わらないところに住んでいるこの人はサイズが違う下駄を順番に持っている。履かなくなったものも私は毎年洗っているから、小さいものから順番にずらりと並ぶわけだ。
 そうだねえ、いっそムカデにあげようか、と口に手を当てて憎まれ口をきく。つねってやりたい。
 青空にさらされて、下駄はみるみるうちに白く乾いていく。

「そのうち誰か使うようになるかしら」
もう何年も繰り返すことばを私はまた言う。あなたはそして毎年の言葉を続ける。
「誰が使わなくてもいいんじゃない。」
曖昧な言葉がまた、下駄の行き先を決める。捨てないもの。捨てられないあなた。

 サイズだけが合う男物の下駄を片方だけ、私はつま先にひっかけて飛ばした。

posted by かみうお at 00:16| Comment(0) | かみうお | 更新情報をチェックする

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